テザリング組手

火を見て森を水

シポウルスポール考 (The Last Remnant)

みんな!ラストレムナントって知っていますか。
スクウェア・エニックスが2008年にXBOX360とPC向けに販売した、集団戦を行うRPGです。
2018, 19年には、PS4やSwitchでリマスター版が出ています。

www.jp.square-enix.com


軽い気持ちでオススメできない作品ですが、どうしても好きだし、やっぱりオススメしちゃいます。
端的に表現するとしたら、ロマンシング・サガ3のコマンダーモードで操れるパーティが複数あり、更にフィールド上の位置関係の要素が足されたようなゲームです。
ロマンシング・サガ3を知らない場合は、すみません。

もしも、あなたがこのゲームを遊ぼう、と思うような勇者である場合は、PC版Wikiを読みながら遊ぶことを推奨します。

wikiwiki.jp

 

この記事では、ラストレムナント日本版に出てくる術法・シポウルスポールの語源について考察していきます。
考察とは名ばかりで、ググりと感想文の羅列に過ぎませんが…。

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シポウルスポールって何?

ラストレムナントでは、ファンタジーで言う魔法や術は、ミスティック・アーツ(Mystic Arts、MA)という名前で登場している。
MAには、突撃術法、狙撃術法、工作術法、救助術法、戦術術法、戦略術法、6つの体系がある*1
各術法を、複数人で合成して発動する全体範囲のMAが禁忌術法。

今回考察していく、「シポウルスポール」という名前のMAは、この禁忌術法に属している。
合成元は、状態異常を目的とする工作術法。3人で行う。
敵全体に、沈黙・麻痺・毒・ピヨリの4つの状態異常を与えつつ、打属性の特大ダメージを与える術である。


こんな感じ↓

くさそう

ゲーム中の記述は

全ての敵ユニオンに術法ダメージを与える。まれに対象を複数のステータス異常にする

というもの。

複数の人員=ユニオンで成り立つ隊=ユニットと対峙することとなるラストレムナントにおいては、全体攻撃がいかに頼もしいことかは言うまでもない。
更に、このゲームは状態異常がとても強い。
このような理由から、シポウルスポールのことを頼もしく思いつつ、その耳なじみのない、されど小気味よい名前を忘れられずにいるマニアクスたちも少なくないのではないだろうか*2

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シポウルスポールの元ネタ・語源探訪

さて、この奇妙な謎の単語、シポウルスポールを探っていこう。

英語版 The Last Remnant のシポウルスポール

まずは、英語版での名前を確認する。
下手をすれば、それだけでシポウルスポールの綴りが分かって、早くもチェックメイトだ!

禁忌術法Arcanaの、工作術法Hexesの術‥‥‥‥
‥‥どうやら、シポウルスポールの英語名はAnimalcule(アニマルキュール)のようだ*3
Animalはそのまま動物・生物、Culeはラテン語で「小さなもの」を表すCulumから。
Animalculeはそれらを繋げた、「小さな生物」という意味の単語。
転じて、微生物、細菌、バクテリアなどもAnimalculeとまとめて呼ぶことができる。
毒を操るシポウルスポールの内容を表すのに適した訳だと言えるだろう。

英語版の術名からは、細菌のイメージを共有するまでにとどまる結果となった。
しかし、このご時世に於いて目にすることもありそうな単語も、一つ覚えられた。
未知の単語は、無限に存在することで広く知られているはずだ。

Final Fantasy12のシポウルスポール "シオウルスポール"

シポウルスポールでググってみると、違うけどよく似ている単語が見つかった*4
Final Fantasy12の敵専用技に、「シオウルスポール」というものが存在するのだ。

使用する敵は、ゴルモア大森林のボス、エルダードラゴン。
近距離範囲攻撃で、こちらに混乱、スロウ、沈黙、くらやみ、猛毒、オイル、スリップの状態異常を付与。
プレイヤーは使えないものの、範囲攻撃、多彩な状態異常と、ラストレムナントのシポウルスポールに通ずる要素を持っている。
上記FF用語Wikiにも書かれている通り、ラストレムナントFF12も、サガの産みの親・河津秋敏氏のチームが携わっていることから、恐らく同じ出自の名づけなのだろう。

シオウルスポールの英語名は、Sporefall*5
Sporeは胞子、Sporefallは「胞子落とし」といった意味合いだろう。
技の演出からも、上から胞子を降らせている様子が見て取れる。
発音自体は「スポア」だが、この単語が「スポール」とイコールであろう。

動画の4:19~4:31あたりで、シオウルスポールの演出を確認できます

youtu.be

 

シポウルスポール、シオウルスポールの"スポール"は特定できたが、では"シポウル"、"シオウル"とは、何を表すのだろうか?

英語のFF FandomのSporefallのページには、同時に「直訳した場合は"Sheol Spore" (lit. "Sheol Spore")」という一文が見て取れる。
Sporeは上記した通り、胞子を表す英単語たが、それではSheolとは何なのだろうか。

"シポウル(シオウル)"を探る

改めて、シポウルの語源を探っていこう。
調べものの入り口はググりである。まずは何より、ググれ!我らググり世代。

シポウルは、ラストレムナントの情報しか当たらない!
(ここでは「シポウル」と省略する記述をいくつか目にしたが、ここまでの調査(=Sporeが後半の語で、胞子を表す)を踏まえると、正しい切り分け方であるわけだ。)

シェオル(שאול, Sheol)は、ヘブライ語音訳であり、新改訳聖書では「黄泉」の原語である*6

旧約聖書(ヘブライ語)に書かれている死者の国、黄泉の国、冥界がシェオルであると分かった*7

以上から、Sheol Sporeは"黄泉の国の胞子"という意味合いであろうか。
強力なダメージだけでなく、多彩な状態異常もバラ撒くシポウルスポール・シオウルスポールにうってつけである。

そして、ラストレムナントにおける該当の禁忌術法名は誤読である可能性が出てきた。
Sheolは確かに、セウルだとかソールといった別の読み方も確かに存在している。
しかし、Pの音が入った読み換えや、Pの入っていないSheolの綴りからPの発音が産まれるような言語を私は知らない。
(Hに撥音の要素が入るような読み方をする言語をお知りの方はお教えくださいな。)

・シポウルスポールはSheol Sporeの誤読

・黄泉の胞子を表すSheol Sporeが元来の名前だが、英語版ではAnimalcule、Sporefallと別方面からの訳がなされている

この二点を、ひとまずの結論とさせていただく。


閑話

どうしても海外のラストレムナントプレイヤーと日本名のシポウルスポールについて話したい人は、FF12に則ってSheol Spore(シオウルスポール/シェオルスポア)としてお話するかもしくは、上記の誤読まで含めてShepol Spore(シポウルスポール/ シェポルスポア)と、背景を説明しながら使ってみたらいいんじゃないかと思います。

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語源探訪を終えて

レゲエを演奏するつもりならいざ知らず、*8ラストレムナントの技術名を学ぶときにも聖書の教養が必要であるなどとは、夢にも思わなかった。

語源については、FF12のシオウルスポールに辿り着ければ、芋づる式に結論に至ることが出来た。
(記事中では、FF12の英語名からすんなりとシェオルにまで導かれているように書きはしているが、実際には"lit. Sheol Spore"の表記を見逃していた。結果、シポウルとかシオウルから黄泉の国を示す単語・シェオルに到着するまでに、ここに書いていない、色々な道程を辿ったのであった。知恵袋とかね。)

結局、「シポウルスポール」の単語自体は、"言語的には正しくない"ものではあったが、だからと言って正すべきとか、興味を失うなどということは全くない。

河津秋敏さんの開発チームが作るゲームには、今回のように"正しくない"名前が少なからず出てくる。
例えば、ブリムスラーヴスとプリムスターヴス、バブラシュカとバラブシュカ等々…。
いずれも神話や海外文化からの情報を仕入れ、世界観醸造に一躍する、説得力のある調べものの元、結果的に誤読が発生している。

そもそも、創作物なのだから、現実にない名前を付けて何も問題はない。
(例. サトーココノカドー、オンスタグラム等々…)
更に、例示したような創作名とは一線を画した独創性を持っている。
ひねった上に着地をミスした名前。
これが、元ネタのニオイを消しつつ、独自性をもたらしている背景だろう。
そして、元ネタが分かりにくいが故に、僕のようにシポウルスポールを調べたり、下記記事にてアルム=バンド氏がブリムスラーヴスを調べ(た挙句にルーン文字カレンダーをバッチバチに購入しちゃっている!)る結果に繋がっている。
こういう経験があるから、書き間違えとか言い間違え、聞き間違えに魅力を感じて仕方がないんです。

 

これら例のうち、特にブリムスラーヴスは、以下の記事に詳しい。

今回の記事化に踏み切る切っ掛けになりました。本当に面白い。
しっかりと文献にも当たっていて、こんな記事とは比にならないほどしっかりと考察されております。
ここまで、少なくとも興味を持って読み切っていただけた方々にはより楽しんでもらえること請け合い。
是非確認されたし!!

ewigleere.net

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ラストレムナント、やってね。

 

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*1:突撃Invocationsは近接、狙撃Evocationsは遠距離、工作Hexesは状態異常、救助Remediesは回復、戦術Psionicsはモラル上下、戦略Wardsは味方のサポートを目的とする術法。

*2:俺の悩んでいる様も、インターネットに漏れ出していた。忘れていた。この記事の通り、今日に至るまで、忘れられずにいるのである。このツイートについては忘れていたのに?

*3:

lastremnant.fandom.com

The Last Remnant Wiki。英語。日本語Wikiよりも詳しい可能性があり、しかし日英で用語等名前が統一されていないため、逐一の確認が必要。
Artsの各項目で、術や技の内容が、実際の映像とともに確認できる、すばらしいサイトです。

*4:特技/【シオウルスポール】 - ファイナルファンタジー用語辞典 Wiki*

*5:

finalfantasy.fandom.com

*6:シェオルについて、Wikipedia

ja.wikipedia.org

*7:聖書での冥界と言えば、ハデスとか、ゲヘナなどという単語のほうが創作物等で一般に普及しているように思えるが(私もシェオルなぞ耳なじみがなく、聞いたことがあるのはこの二つでした)、なんでもその二つは新約聖書(ギリシア語)での呼び方であるとのこと。また、シェオルは、端的に地獄を表す訳ではなく、死後、魂がとどまる中立の場所としての黄泉を表すため、単純に「死後の世界」と認識するのが良いだろう。

*8:the pillowsのギター、真鍋さんがレゲエ音楽をやる際に聖書を読み切った、という記述を昔読んだことに由来する記述。レゲエ発祥の地ジャマイカでは保守キリスト教徒が大半を占めている。ラスタファリ思想運動と密接に関わったそれは、聖書を聖典としているため、レゲエ音楽の読み解き等には聖書の知識が必要なのだそうだ。閑話休題